文化出身、次世代クリエイターたちのつながり Next!

小野莫大小(メリヤス)工業
smoothdayデザイナー
杉原 淳史 1985年福島県生まれ。2007年アパレルデザイン科を卒業後、在学中に賞を得たファッションコンテストの副賞でパリに留学。その後パリに残り、一流メゾンでデザインとパターンを手掛ける。小野莫大小工業の素材コズモラマと出あい、その素晴らしさを多くの人に伝えたいと約5年過ごしたパリから帰国、小野莫大小工業に入社。2012年8月、表参道にコズモラマのオリジナル商品を展開するショップsmoothdayをオープン。

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ライター 武田 京子

日本大学芸術学部放送学科在学中、文化服装学院II部服装科に入学、卒業。文化出版局『装苑』編集部に在籍後、いくつかの編集部を経て2005年よりフリーの編集・ライターとして活動。

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小野莫大小(メリヤス)工業 smoothdayデザイナー 杉原 淳史

最高の素材と立体感の組み合わせをたくさんの人とシェアしたい

次世代のファッション業界を支える、文化の若手卒業生を紹介する企画「Next!」。今回ご登場いただくのは、日本が世界に誇るテキスタイルの魅力を発信するショップsmoothdayのデザイナーを務める杉原淳史さんです。

「気持ちいい」感覚を呼び覚ます素材

小野莫大小(メリヤス)工業が開発した特許素材「コズモラマ」。コットンやリネンといった天然素材を使い、吸水速乾性などの高い機能性とファッション性を併せ持つ、国内外の一流デザイナーの厚い支持を得る素材だ。杉原さんも、コズモラマに惚れ込んだデザイナーのひとり。「僕自身もそうでしたが、一度着ると脱ぎたくなくなる肌触りのよさを、一人でも多くの人に知ってほしい。着るものに無頓着な人こそ、着心地のいい服を着ると気分がまったく違ってくることを体感してほしいです」ショップsmoothdayでは、カットソーなどの衣類だけでなく、生活の中で肌に直接触れるさまざまなものをコズモラマに置き換え、誰もが持つ「気持ちいい」という感覚を呼び覚ましたいという。

コズモラマとクリエーション

杉原さんがコズモラマに出あったのは、パリの有名メゾンでデザイナー・パタンナーをしていたとき。チーフデザイナーの男性が着ていたカットソーに、それまで抱いていたジャージー素材のイメージを覆す衝撃を受け、その存在を知ったという。「過去のどの素材にも該当せず、モダンでありながら老若男女が永遠に着られる、また着たいと思わせることのできる素材だと確信しました」コズモラマを多くの人にどう伝え、どうシェアしていくかを考えた結果、「最初にショップを作る」という今までのファッション業界とは逆のアプローチで、テキスタイルメーカーの未来のあり方をお客さんとともに作り上げたいと思った杉原さん。今後はコズモラマの魅力や特性を、パリで突き詰めた立体裁断の高度なテクニックを使って、惜しみなくアピールしていきたいそうだ。

ファッション業界の常識を崩したい

杉原さんが「今後デザイナーとしてどう生きていくか」を考えるとき、コレクションで作品発表し、バイヤーやメディア関係者に実力が認められ、ショップで商品が展開される…という既存の流れには少々限界を感じるようだ。「たとえばセレクトショップに商品を置いても、お客さんが数多くの商品のなかから自分の商品を選び、素材の特性をきちんと理解してくれる可能性は低いです。時間はかかりますが、ショップで一人ひとりに素材や商品の魅力を伝えて支持者を増やし、その上でコレクションやショップの世界観ごと海外進出を目指すほうが息の長い活動ができるかなと思います」杉原さんが目指すのは、これまで縦の関係にあったテキスタイルメーカー、デザイナー、消費者が横につながり、ともに歩んでいくことだ。



smoothdayとは「smooth(気持ちいい)」+「day(一日)」という造語。「肌触りのいい素材を身にまとい、気持ちいい一日を過ごしてほしい」という杉原さんの思いが込められている。

同級生のひと言が夢実現の第一歩に
文化として後世に残る服作りをしたい

誰しも「美味しい」ものが好きなように「気持ちいい」ものが好きなはずだが、「悔しいですが、衣食住の中で衣(ファッション)はまだ一部の人たちの楽しみで、幅広い層に浸透していません」と杉原さん。ましてや今は低価格のファストファッション全盛期で、いわばファッションは大量生産・消費の一過性の流行になってしまっている。だが、smoothdayでは着心地や洋服のシルエットといった本質で勝負し、ファッション=ライフスタイルということをデザインの力で届けていきたいという。「日本に戻ってきて1年、すべてはこれからですが、パリで得た立体の知識・テクニックと素晴らしい素材を融合させ、文化として後世に残るものを作っていきたい。そして、ファッションの裾野を広げていきたいです」素材や服作りに対する杉原さんの真摯な思いは、ファッション界に新風を吹き込んでくれそうだ。
※この取材内容は2012年6月時点のものです。



シルクのような光沢とドライタッチを持つコズモラマ。綿100%の糸で、シルクタッチから合繊タッチまでを表現している。


杉原さんのために、道具ひとつから社長が用意してくれたという作業部屋。ショップ完成後は、ショップ内にアトリエが併設されるという。


取材時は、商品の最終チェック段階。量産のための仕様書や生地見本が、机の上に並んでいた。


ディレクターの加藤さんが作成したロゴ。メリヤス生地を編む際に使用される編み針や、小野莫大小工業の生地の特徴である繊細で上質な糸の印象から着想し、アルファベットそのものを一から設計したオリジナル書体で構成されている。

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