卒業間近に見つけた図案家という職業
私たちが普段目にすることの多い洋服の生地の絵柄、プリント。それをデザインするのが図案家の仕事だ。図案家はテキスタイルデザイナーとは違う、と塩澤さんは言う。もともと絵を描くことが好きだった塩澤さんはグラフィックデザインの学校を出た後に文化服装学院へ入学。3年目に入るも就職活動をしないまま卒業式を目前に控えたある日、たまたま装苑を見ていたら「ドレスキャンプ」の図案家が紹介されているのを見て興味を持ち、テキスタイルの先生に講師の先生を紹介してもらうことに。卒業式の日にその先生に会い、塩澤さんの絵を見てもらうと「うん、大丈夫。これならできる」と言われたそう。後日再度会った時に多くの企業を紹介されるが、「京都でフリーでやっている図案家さんがいて、変わってる人だと聞いてそこに行くと決めました」
師匠のもとで学んだこと
卒業後すぐに京都へ行き、事務所に住み込みで弟子入りすることに。師匠は手描きだった時代からPCでの作業に移行した初期の方なのだそう。「京都に行って即日描き始めたんですけど、『自分に才能があるなんて思うなよ』って言われましたね。衝撃的でした」。まず理解しないといけないことが“送り”と言われるもので、1枚の柄が永遠に繋がるように描くこと。これは横四方送り、ステップ送りが基本にあり、横に続く絵、一度斜めにいって続く絵という違いがある。ここで求められることは数学で、柄によって画角サイズが変わるので計算しなければいけないのだ。ほかにも「柄ではなく余白を見ろ」、「良い柄は誰にも気付かれない柄」、「図案家で認められる人というのは生きている花が描ける人」など、「師匠からは技法というよりも、言葉、仕事に対する姿勢、精神を学びました」と塩澤さん。
見る目が養われたヨーロッパ一周旅行
京都の師匠のもとで図案家の仕事を学び、2年で独立。「図案家は本当は最低10年は修行しなきゃならないんですけど、僕は勝手に2年で辞めて独立しちゃったんです」。その後半年くらいの間はバックパッカーになりヨーロッパ中を旅したそう。その時に食事以外のお金をすべて美術館巡りに費やしたという。「あの時に良いものをたくさん見たから、自分で良いと思えるランクがめちゃくちゃ上がりました。美術館にあるものが必ずしも自分自身の感覚で“良い”と思えるものだけとは限らない。確かに美術館というところに答えがあると思って行くけど、自分自身が見て答えを出せばいいんだと気付いたんです。自分で決めていいんだとわかった時に、一気にランクがぐんと上がった気がしました」